用途分野 / 01

電池電解液用炭酸エステル溶媒

EC、DMC、EMC、DEC、PCの物性と溶媒和から、混合、SEI、低温での輸送、原料品質が電解液の用途にどう関わるかを解説します。

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グローブボックス前での電解液試料の調製風景

電解液はイオンの通り道と電極反応をつなぐ

リチウムイオン電池では、電子が外部回路を流れる一方、イオンはセル内部を移動します。電解液は多孔質電極とセパレータに入り込み、連続したイオンの通り道を形成します。炭酸エステル溶媒はリチウム塩に液体環境を与えると同時に、リチウムイオン周囲の配位や電極表面反応にも関与します。したがって、溶媒の選択には液体の流れやすさだけでなく、イオンが電極に到達し、その内部へ入る過程の理解も必要です。

塩の溶解、解離、溶媒和は別の概念です。塩が液体に溶けても、正負のイオンが会合したままである場合があります。溶媒分子は酸素を含む部位でリチウムイオンと相互作用し、絶えず変化する局所環境を形成します。高い誘電特性はイオン間の静電引力を弱める助けになりますが、それだけでは伝導に有効に寄与するイオン数も移動速度も分かりません。

多孔質構造を考えると、低粘度の意味も明確になります。流れやすい液体は細孔に入りやすい一方、十分に含浸するかどうかは表面特性、細孔径、注液条件にも左右されます。瓶の中で透明かつ流動性が良いことは、液体に関する一部の問題に答えるにすぎません。電極内部に均一な経路ができるかは、対象構造と工程で確認する必要があります。

技術参考資料: [1]

5種類の炭酸エステルの役割と使用条件

炭酸エチレン(EC)は環状炭酸エステルで、多くの従来型配合ではリチウム塩の解離と負極での被膜形成に寄与します。一方、相状態が制約となります。純物質の参考融点は約36°Cですが、混合電解液の最低使用温度を示すものではありません。他の溶媒、塩、添加剤を加えた後は、系全体の相平衡を改めて考える必要があります。

炭酸ジメチル(DMC)は両端にメチル基を持つ鎖状炭酸エステルで、流動性を調整する共溶媒としてよく用いられます。三井ファインケミカルの一般物性表にある純物質の融点は4.65°Cです。低粘度であることと低温で結晶化しないことは別の性質です。DMCを増やすと揮発損失や溶媒和環境も変わるため、粘度だけを変える成分とは捉えられません。

炭酸エチルメチル(EMC)はメチル基とエチル基を持ち、参考融点は≤−53°Cです。純物質の凝固温度が低いため、低温での液相範囲を広げる成分の候補になります。ただし配合中の液相範囲は、EC比率、塩濃度、他成分にも左右されます。

炭酸ジエチル(DEC)は両端にエチル基を持ち、三井の表では純物質の融点が−43°Cです。DEC、DMC、EMCは差を無視して使える同種の充填成分ではありません。成分を替えると液相の相互作用や気液分配が変わります。イオン伝導率を比較するには塩種、濃度、温度、配合比の基準をそろえる必要があり、純物質の融点や沸点だけで性能順位は決まりません。

炭酸プロピレン(PC)はメチル基を持つ環状炭酸エステルで、電解液の極性溶媒として使用できます。比較的広い液体温度範囲と塩を溶かす働きには用途上の価値があります。ただし黒鉛負極では、適切な界面を形成できるかが別の条件です。PCはすべての黒鉛系で使用禁止というわけではなく、他条件を変えずにECと交換できる同等材料でもありません。

技術参考資料: [2] [3] [4]

5種類の原料を比較する出発点

材料・工程
働きと比較対象
主な検討事項
EC
環状溶媒:塩の解離と界面形成
純物質の相状態と混合液の温度範囲は異なり、成膜は塩と電極にも依存
DMC
鎖状共溶媒:流動と局所配位の調整
純物質の融点4.65°C。低粘度でも低温で結晶化しないとは限らない
EMC
非対称な鎖状構造。液体温度範囲に着目
純物質の融点≤−53°C。含塩系全体で比較する
DEC
リチウムイオンの配位にも関与する鎖状共溶媒
純物質の融点−43°C。物性だけでイオン伝導率順位は決められない
PC
適合する電気化学系で使える環状極性溶媒
黒鉛界面は塩濃度、添加剤、表面条件に依存

融点は三井の純物質の一般物性です。ECの約36°CはTCIの参考物性、37–39°Cは当該試薬の規格範囲であり、利興の納入規格や混合電解液の使用温度ではありません。≤−53°Cは上限を示します。各成分の役割は主な傾向であり、専ら一つの機能を担うわけではありません。 利興のEMC製品資料に記載された融点は−14.5°Cです。上記の≤−53°Cは第三者による純物質の参考値であり、両者を同じ受入基準として扱うことはできません。購入・取扱いは対象製品の資料と合意条件に従ってください。

炭酸エステルを混合する理由

混合の目的は、相状態、流動、塩の解離、界面の間で使用可能な組み合わせを見つけることです。各材料に独立した役割を一つずつ割り振ることではありません。ECは溶解と被膜形成への寄与が大きく、鎖状成分は流動調整を担うことが多いものの、ECだけが配位し、他成分は希釈するだけという意味ではありません。

Leeらの2017年の原著研究では、DECとリチウムイオンの相互作用・交換が観測され、PC/DMC混合系でDMCが溶媒和に関与する証拠も論じられています。配合を理解するうえで重要なのは、鎖状炭酸エステルもリチウムイオン周囲の局所構造に入り、溶媒分子が交換することです。共溶媒の変更は、巨視的な粘度だけでなく、イオン移動や電極到達後の配位分子の脱離にも影響し得ます。

イオン伝導率は塩を含む液体中でイオンが共同して電流を運ぶ能力を表し、リチウムイオンだけの輸送を測る指標ではありません。塩濃度を上げるとイオン供給は増えますが、会合や粘度も増す可能性があります。両効果が競合するため、塩を増やしてもイオン伝導率が上がり続けるとは限りません。同じ数値の質量比と体積比を同一配合と見なすことも、実際の組成差を隠します。

技術参考資料: [1]

SEIとPC・黒鉛の適合条件

負極が電解液を還元できる電位になると、一部成分が先に反応して固体電解質界面膜(SEI)を形成します。求められるのは、リチウムイオンを通しながら、電子による電解液の継続分解を抑える界面です。膜が繰り返し壊れたり成長し続けたりすると、活性物質を消費し輸送抵抗を増やします。膜ができることと、安定して機能する膜ができることは同じではありません。

ECはこの過程に関与できますが、膜の組成と健全性は塩、添加剤、電極表面、化成条件にも左右されます。一部の従来型黒鉛系では、PCが溶媒和リチウムと共挿入し、層間に不利な変化を起こします。液体を保ち、塩を溶かせることだけでは、この界面リスクを打ち消せません。

Pan、Wang、Luchtが2016年に調べたのは、LiTFSI/PCとバインダーを使用しない黒鉛です。この研究では、低塩濃度で継続的な還元、高濃度側で可逆的なリチウム挿入・脱離が報告され、改善はSEI中のLiF増加と関連していました。これは濃度と界面が結果を変え得ることを支持しますが、LiFだけが性能を決める証明ではなく、電極の結果をフルセル寿命に換算することもできません。

またJeongらはPC溶液中での成膜添加剤による黒鉛表面への影響を研究しています。2001年の炭素被覆黒鉛の研究では、対象のPC系電解液で共挿入が抑えられ、初期不可逆容量が低下したと報告されています。これらはそれぞれ添加剤または表面条件を変えた研究であり、組み合わせて検証済みの万能配合と見なすことはできません。

技術参考資料: [4] [5] [6]

液体が結晶化しなくてもセル出力が下がる理由

同じセルを冷却すると、電解液が流動性を保っていても、従来の出力を維持できない場合があります。まず、結晶がないことは相変化による閉塞が観察されないことを示すだけで、粘度上昇やイオン輸送の低下は起こり得ます。さらに電極に到達したリチウムイオンは、脱溶媒和、界面通過、電極内拡散を経る必要があり、これらも温度に依存します。

これらを区別するには、同温度での含塩液体試験とセル試験を関連づけます。液体のイオン伝導率低下はバルク輸送を示す手掛かりです。変化が小さくても、界面、電極構造、充電状態、試験レートを考える必要があります。一度の出力低下を特定溶媒だけに帰属できず、凝固点の低い原料への変更だけで解決したとも判断できません。

技術参考資料: [1] [4]

純度、水分、各不純物が示すもの

主成分純度は主成分の割合を示しますが、残りの組成全体は説明しません。GCは適用範囲内の有機成分を分離し、面積百分率も自動的に質量分率にはなりません。カールフィッシャー法は水を、酸度は指定法における酸性成分を扱います。金属元素や粒子には別の分析が必要です。AgilentのGC/MS資料は電解液中の炭酸エステルと添加剤を対象とし、水分とすべての金属を網羅する万能検査ではありません。

LiPF6を含む系では、水が酸性種を生成する反応に関与し得るため、水分は別項目にする必要があります。金属は元素種、含有量、化学形態を合わせて解釈します。元素の検出だけでは、顕著な性能低下を引き起こした証明になりません。同じ不純物でも電極や目標で感受性が異なり得るため、限度値は用途に対応させ、比較可能な採取・測定条件と組み合わせます。

技術参考資料: [7] [8]

原料と関連する解説

LixingはDMC、EMC、DEC、EC、PCを供給しています。対象系が決まっている場合、製品名と必要品質を供給可能な規格と照合できます。純度の読み方、水分収支、PCと黒鉛の適合性は資料センターで詳しく説明しています。単一原料の資料、混合電解液、セルの結果は、それぞれ別の問いに答えるものです。

原料についてのご相談

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よくある質問

冷却前後で同じ1 mol/Lという表示なら、濃度基準も同じと見なせますか。

mol/Lは溶液体積に基づき、体積は温度に依存します。調製温度と測定温度を明示して比較します。mol/kgは質量基準ですが、分母が溶媒か別の取り決めた対象かも明確にする必要があります。

原料変更後、配合比の変化と不純物の変化をどう区別しますか。

主成分含量が実際の投入量を決め、水分と他の不純物は別に扱います。配合の計量、塩、試験条件を比較可能にして初めて、変化の由来を判断できます。

技術参考資料

以下の資料では、各用途の原理をさらに詳しく確認できます。利興原料の納入品質は、双方で合意した製品規格に基づきます。

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