炭酸プロピレン(PC)は、特定の配合・電極条件では黒鉛系に使用できます。ただし、通常のPC系電解液には溶媒の共挿入、継続的な分解、黒鉛構造の損傷のリスクがあります。塩の種類、濃度、添加剤、電極表面条件に基づいて適合性を判断する必要があります。塩濃度や界面条件を変えて改善した研究もあります。
黒鉛の層間で起こること
黒鉛は層状構造からなります。リチウムイオン電池の充電時にはリチウムが層間に入り、放電時に出ていきます。この可逆的な出入りを挿入・脱離と呼びます。正常なリチウム貯蔵過程では、黒鉛構造が引き続き機能できる状態を維持する必要があります。
炭酸プロピレン(PC)はリチウムイオンと溶媒和構造を形成できます。不適切な条件では、溶媒分子がリチウムイオンとともに層間へ入ります。これが共挿入です。その後の還元分解、ガス発生、層間構造の変化によって黒鉛が剥離する可能性があり、単に分子が大きいというだけの問題ではありません。
保護性の界面膜が重要な理由
固体電解質界面膜(SEI)は、電解液成分が電極表面で反応してできる薄い層です。適切なSEIはリチウムイオンを通しながら、電子による電解液分解の継続を抑えます。保護が不十分な場合、副反応が電解液と利用可能なリチウムを消費し続けます。
炭酸エチレン(EC)は多くの従来型黒鉛系でこの保護の形成に有利に働きますが、通常の系でのPCの挙動は異なります。両者が環状炭酸エステルで誘電率も高いからといって、界面反応が同じとはいえません。また、ECを加えることだけで配合全体の安定性が保証されるわけでもありません。

適合性を改善するための考え方
皮膜形成添加剤は界面反応の順序を変え、保護に有利な反応を先に起こすことで、PCの継続的な分解や共挿入の機会を減らすことを目指します。一方、電極表面処理は、例えば保護層で直接接触を隔てるなど、PCが接する表面を先に変えます。保護層はリチウムイオンを通す必要もあり、被覆が不完全な場合や抵抗が大きすぎる場合は効果が制限されます。この二つは液体成分と電極表面という異なる側からの手法であり、単純に置き換えられません。
塩濃度や溶媒和を調整する手法は、液体中の配位環境に着目し、溶媒、リチウムイオン、陰イオンの界面反応への関与を変えます。高濃度では異なる界面組成が形成される可能性がありますが、粘度上昇や輸送特性の変化も生じます。これは反応環境を調整するもので、すべての電極表面に同じ保護が形成されることを保証しません。
塩濃度を変えると適合性が改善する場合がある理由
Panらは2016年に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)/PC電解液と、バインダーを用いない黒鉛電極を研究しました。低塩濃度では継続的な還元が、より高い濃度では可逆的なリチウム挿入・脱離が観察されました。性能改善は、界面膜中のフッ化リチウム含有量の増加と関連していました。
研究ではサイクル後の電極表面の分光分析により、充放電挙動と界面膜組成を関連付けています。塩濃度の変更が界面反応と保護効果を変え得ることを示していますが、結果はLiTFSI/PCとバインダーを用いない黒鉛の実験条件に対応するものです。他のリチウム塩、商用フルセルの寿命、特定のPCグレードの性能を保証するものではありません。
PCの利点と制約をどう理解するか
PCは誘電率が高く、液体を維持する温度範囲が広いため、一部の電気化学系で候補溶媒となります。黒鉛に用いる場合は、原料純度、水分、界面適合性を合わせて考える必要があります。純度管理は界面設計の代わりにはなりません。
PCが対象系に適するかを決めるには、塩の種類、濃度、皮膜形成添加剤、電極表面の組み合わせを評価し、輸送とサイクル特性を確認します。他の電極や工業用途は条件が異なるため、それぞれの用途に応じて評価します。
参考資料
Panら:バインダーを用いない黒鉛電極におけるLiTFSI/PCの研究(2016)

